私はマジシャン・ザ・ブラッディの助手
と言っても短期契約のアルバイトなの
私は胴体切断マジックの時にしか出番が無い
っていうのは最初っから客席にいて
いかにも修学旅行で来た女子高生ですって顔して
舞台から指名されるのを待ってるの
年齢？実年齢ではかなり無理が有るけど
セーラー服着て暗い客席では全然問題無く女子高生でいられるの
それでも同じ人が毎回指名されるのに気がつかれるのを避ける為か
彼はもう何人もアルバイトの助手を変えたと聞いてるわ
胴体切断マジックのタネ知ってる？
普通マジシャンは特に自分で作ったオリジナルのマジックのタネは公開しないわ
けどさすがに切断される役の私には教えてくれたわ
実はスカートのお腹の部分が２重になっていて
ベッドに横たわると背中側からスッポリと胴体はベットの下に
抜けるしくみになってるの
セーラー服のお臍の辺りまでしかない上着の形とスカートのギャザー部分が
そのままトリックとして利用されているの
殻になる部分は硬質ゴムを段ボールでつないでいるだけの構造だけど
表面は本物のスカートを使うから１回演じる毎にスカートを１枚ダメにするから
コストがかかるって団長はぼやいていたわ
私は私自身が切断される所をビデオなり写真なりで
見た事がなかったの
けど先日学校時代のお友だちが団長の許可を得て
一部始終を撮影してくれたわ
どうして胴体切断マジックが好んで演じられるか少しは判った気がしたわ
私ある日ふと気になってマジシャン・ザ・ブラッディに聞いてみたわ
もし仕掛けが作動しなかったら私はどうやってあなたに知らせればいいのって
そしたら彼は「そんな事絶対有り得ないから心配しなくてもいいよ」って
自分が作成した道具だから絶対ミスはない そう思い込んでいるの
私は正直言って怖いわ
仕掛けで守られているけど私のお臍の真上で回転してるのは本物の鋸よ
万一でも失敗したら私胴体から本当に真っ二つよ
完全に縛りつけられてるし、普段から迫真の演技で切断される役こなしているから
彼からは切断の最中はミスを判別できないわ
彼が気がついた時には私すでに切断されて死んでいるのよ
でも彼は胴体切断マジックをやめようとしないの
一番人気の有る出し物なんだって
私もギャラがいいから短期のバイトだけど当分やめる気はないわ
・・・
異変はある日突然やって来たわ
恐れていた事が現実に起こってしまったの
背中側の仕掛けが作動しない！
ベッドの下に隠れるはずの私の胴体はまだベッドの上よ
私は必死に彼に異常を伝えようと何度も試みたわ
けど彼は恐怖の演出のバリエーションを一つ増やしたな程度にしか
思ってくれなかったみたい むしろいつもより嬉しそうな表情さえ感じられたわ
まったくあきれるわ！自分の作った道具だからって過信のし過ぎよ・・・
私はこうなる前にどうして異常時の合図を決めておかなかったかって
一瞬後悔したわ けど後悔なんてほんの一瞬なの
回転鋸が私の胴体に食い込み始めてからはそんな事考えていられる余裕
なんてなかったわ
みるみるうちに回転鋸はお臍の真上から胴体に食い込んでくるの
情け容赦なんてないわ
一本一本鋭く尖った鋸の刃が次々と私の本物の胴体の皮膚を傷つけていくのよ
スカートの下で傷ついた皮膚の表面から脇腹へつーっと血が流れるのを感じていたわ
こんなに大勢の人達が見てるのに誰一人助けようとはしないわ
あたりまえね 観客たちは本当に切断されてるなんて想像もしないで
安心して（少しどきどきして）見ているだけなのだから
私には半分ばかげているいまの自分の状態をそれでもどうする事もできなかったわ
耐え難い痛みを感じながら・・・何を耐えるの？
少し我慢すれば助かるなら耐える事にも意味は有る
けどもう少しすればこの痛みの中で私はみごとに真っ二つよ！
仕掛けのスカートが切断されたその下から私が実際に着用してるスカートが
のぞいているわ
少し注意深い人ならスカートが２重になっているのに気がついたはずよ
スカートの下では私のお腹の肉が鋸の回転でねじ切られていく様子が
見えてるはずよ 肉が切り裂かれた後 内蔵が露出しはじめたわ
彼にならこの様子が尋常でない事に気がつけるはずなのにまるで意に介さないの
私は精一杯演技ではなくて縛りつけられた手足をじたばた動かしてみせる
その抵抗は観客の興奮度を高める作用にしかならなかったわ
鋸の回転が私の内蔵を切り飛ばし始める頃にはお臍の辺りは血の海よ
観客はいままで見た事の無いようなリアルマジックにかなり興奮しているわ
あたりまえよ！いま行われているのはマジックでなくて本当の切断行為よ
いま飛び散っているのは作り物の内蔵でなくて私の本物の内蔵なのよ
すべてが私には絶望的だったわ 何の抵抗もできなくて皆の見てる前で
生きたまま真っ二つよ こんなの異常だわ
気を失う事も許されない信じられない痛みだけが私の中で唯一の本当だったわ
ああ、もうダメ なんでこんな危険なバイト続けていたのかしら
・・・
やがて回転鋸は完全に私を真っ二つに分断した
彼が何事も無かった様に普段と同じ様に回転鋸を止めたのは
私が死んだ後だった
観客はあまりにリアルなマジックにまだ興奮している
誰も失敗したとは思ってない様だ
彼もまた失敗したそぶりも見せなかった
まるで最初からそうなる事を予定していたかの様に
・・・
その後も彼は新しい助手を雇って
胴体切断マジックを演じ続けている
相変わらず異常が起きた時の合図も決めずに・・・